記憶は再現・合成ができる?人それぞれで記憶を合成するので、見えるものは違う!

記憶は再現・合成ができる

もうひとつ脳がエネルギー消費を抑えるためにしている手抜きがあります。それは記憶を使って見たような気にさせていることです。私が実際に試みた記憶の実験の話をしましょう。かつて、コンピュータで退行催眠を起こさせるコンピュータ・プログラムを作りました。簡単に説明すると、5歳、10歳、20歳とそれぞれの記憶をコンピュータに貼りつけ、シングルクリックで再現、ダブルクリックで戻ってくるというシステムです。

ある被験者は、5歳をクリックすると、泣き始めました。お母さんと砂場で遊んだ時の記憶が再現され、とても懐かしくてうれしかったので泣いたのだそうです。次に20歳をクリックすると今度は「先生臭い、先生臭い」と言うのです。ワンダーフォーゲル部で山に行って、2週問お風呂に入っていない時の記憶が再現された結果です。退行催眠をすると、記憶の世界は現実世界と同じくらいリアルで、その時の匂いまで感じられるのです。

さらに、シフトキーを押しながら5歳と20歳をクリックすると、なんと、「先生臭い、先生臭い」と言いながら泣いたのです。これは記憶は合成できるということと、その合成記憶も現実と同じようにリアルに感じられるということを実証しています。実際には起きていないことであるにもかかわらず……。記憶を細分化し再合成しても、実体験と同じようにリアリティを持つのです。

さらに、記憶のひとつひとつは合成されたものだということを実験では示しています。合成された記憶なので、小学校と中学校の通動会の記憶がごっちゃになったり、いっしょに旅行に行った人を取り違えたりと、間違って思い出すこともあるのです。

この実験をしたのは20年くらい前、ちょうどフィリップ・K・ディックの短編「追憶売ります」を原作としたアーノルド・シュワルッネッガー主演の映画「トータル・リコール」がアメリカで上映されていた頃でした。ご存じの方も多いと思いますが、映画では近未来、人間の脳に直接働きかけて、擬似体験をしたり記憶を操作する技術が発明されたことになっています。

しかし、みんながSFだと思っていたことが、この時すでにもう私の実験で証明されていたのです。現実の体験も、実は記憶をつなぎ合わせたものです。退行催眠がリアルなのは、催眠術をかける人が上手なのではなくて、退行催眠で呼び起こされる記憶が、現実に体験しているのと同じように感じられるからです。

我々が目の前で起きている現実を見ているときも、記憶のピースを利用して認識しているだけで、本当には見ていないということになります。記憶のひとつひとつを脳の一部にある海馬が合成して見ているのです、物を見るとき、バラバラの光の明るさを合成して見るように、目の前の出来事も自分の記憶を合成して作り出しています。

だから実際は見ているのではなくて、見たつもりになっているだけなのです。日本に住んでいる人、フランスに住んでいる人、中国に住んでいる人が、同じ風景を見ても、見えているものが全く違ってきます。それぞれ自分の記憶を合成して見ているので、自分の記憶にある風景に置き換えて見てしまいます。個人個人が経験してきたことによって、見えるものが違うのです。現実がすべて、自分の記憶からの合成だから起きることです。

 

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